近藤誠がん研究所

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治療の真実を知ろう!

近藤誠
重要医療レポート

REPORT 018

いちばん優れた
「がん免疫療法薬」?

●売上高が日本一

日本人科学者がノーベル医学・生理学賞を受賞したクスリに「オプジーボ」があります(一般名:nivolmab)

発売当時、「夢の新薬」と評判になり、その後、同種の免疫療法薬が次々と発売されています。こういう場合、真っ先に発売されたクスリが、その分野の売上高トップに居つづけるのが普通です。ところが、オプジーボでは異なり、後発薬の「キートルーダ」(一般名:pembrolizumab)が第一位です。

具体的には2020年度は、キートルーダが1183億円を売りあげて、日本の全医薬品●●●●のなかの第1位。オプジーボは988億円で、第2位です。キートルーダとオプジーボは、構造や作用機序などがほぼ同一なのに、なにが違いをもたらしたのでしょうか。

私見では、薬剤として承認してもらうための「比較試験」で、キートルーダの成績がオプジーボの上を行っていたからだと思います。

●すばらしい、キートルーダの試験結果

図1をご覧ください。世界各国の医師たちが共同実施した「比較試験」の結果です。最終病期である「4期」の肺がん患者(つまり臓器転移がある)305人を2分して、片方にはキートルーダを、他方には抗がん剤2種を組み合わせた「化学療法」を実施しています。

この図は、治療開始後の生存期間をみたもので、患者さん(被験者)が亡くなるごとに、グラフ(生存曲線)は下降していきます。つまり、曲線が上に位置するほうが生存率が良好、となります。

図1:N Engl J Med 2016;375:1823

図中用語の説明:
Pembrolizumab:キートルーダの一般名
Chemotherapy:化学療法=抗がん剤治療
Overall survival:総生存率(ともかく生きている人の割合)

オプジーボでも、4期の肺がん患者を対象として、同様の比較試験が実施されています。

しかしオプジーボは(キートルーダほどには)生存曲線が印象的ではなかった。それが、キートルーダを処方する医師たちが増えた裏の理由でしょう。

なお、オプジーボの試験結果(生存曲線)は、この重要医療レポートシリーズ②の図1に示してあります。本項を全部よまれてからその図を見ると、理解が深まるはずです。

●キートルーダの評価を落とした研究結果

ところで図1で特筆すべきは、経過観察期間の最後のほう(治療開始から14か月目以降)で、キートルーダ(Pembrolizumab)群の生存曲線が4か月ほども下落せず、横ばいになっていることです。この期間、誰も死ななかったことを意味しますが、本当でしょうか。

この疑問を念頭に置いて、キートルーダの最新データを見てみましょう。

図2をご覧ください。米国の保険制度に加入していて4期の肺がんを発症した1万9529人の生存期間を、治療法ごとにグラフ化したものです。実診療の場での治療成績と言えます。

図2:JAMA Netw Open. 2021;4:e2111113.

図中用語の説明:
Pembrolizumab:キートルーダ単独 (n = 3079人)
PlatinumとPemetrexed:どちらも抗がん剤 (n = 5159人)
Platinum と Taxane:どちらも抗がん剤 (n = 9866人)
Platinumと PemetrexedとPembrolizumab:抗がん剤2種とキートルーダ (n = 1425人)

図2で特徴的なのは、キートルーダ群の生存曲線が、他の3つのグループの生存曲線と大差がないことです。そのうえ目をこらすと、4つの生存曲線のうち、キートルーダ群のそれが一番下に位置します。つまりキートルーダ群の生存率が最低で、最良なのは抗がん剤(Platinum+Taxane)群です。これは、図1とは真逆の結果です。

別の特徴は、図1とは異なり、どの生存曲線も、観察期間の最後のほうで横ばいにならず、下落し続けていること。つまりキートルーダ群にも、抗がん剤群にも、死者が出つづけています。

このように実診療の生存曲線は、新薬承認のための比較試験結果と異なるのが一般的です。換言すると、比較試験では、新薬に有利な結果が出るのが当たり前なのです。ナゼか。比較試験では、データ操作が行われるからです。つまりインチキです。

そうなる根本原因を検討しましょう。

●実診療では治療成績が落ちるわけ

最大の原因は、新薬承認のための比較試験は、製薬会社が主体となって、医師たちに資金を提供して実施されるからです。医師たちは、自分の患者を被験者にすると、頭数におうじて莫大な金額が研究費という名目で獲得できます。

その場合、会社と「秘密保持契約」を結んでいるので、もし比較試験の最中に何かインチキを見つけても公表できません。仮に公表したら、他の医師たちからは「よくやった」とは言われず、村八分が待っているし、会社からは損害賠償請求されます。

したがって比較試験を始めたら、製薬会社の思いのままです。患者データは会社に集められ、データ解析するのも会社。最後は、会社がやとったライターが論文原稿を書き、医師たちは「自分が書きました」という(偽りの)書類にサインするだけなのです。

では、図1データのどこにインチキがあるのか。がん診療に従事する医師であっても見抜くことが難しい(それゆえインチキデータに騙されてクスリを処方する)ので、よくよく注意して読んでください。

さて、図1の生存曲線には、「ヒゲのような短いタテの棒」が数多く立っていますね。この1本1本のヒゲに対応して、被験者(患者さん)が1人ずつ、その時点で生きていたことになります。ただし、その後の生死は不明である、と。つまりこういうことです。

試験を実施している間、被験者は(3月に一度とか)試験機関のクリニックに定期的に通う約束です。そしてクリニックに来所すれば、「その時点で生きている」と、コンピュータにデータ入力されます。

●被験者が死んでいても、グラフの作図上は、生きていると扱われる

がんの比較試験でよくあることですが、被験者がクリニックに来所しなくなったら、①被験者が生きている可能性も、②(がんの進行や、新薬の副作用などで)亡くなっている可能性もあります。

この場合、生死を確かめるのは簡単です。登録されているアドレスに電話やメールをすればよいのです。これが「追跡調査」です。

ところが比較試験では、(しばしば)追跡調査を省略します。

すると、被験者が最後にクリニックに来所したことがコンピュータに記録されているため、生存曲線は(最後の来所時に)被験者は生きているというデータに基づき計算されます。

しかし実際には、来所されない被験者が亡くなっていることはほぼ確実です。

がんの比較試験に参加する患者さんは、文字通り「命がけ」なので、からだが動く限り、だれも定期診察をすっぽかそうとは思わない。それなのに来所しないのは、すでに死んでいるか、他の病院などで死にかけているサイン(兆候)なのです。

それなのに生きているとして生存曲線を作成すれば、真の(生死にもとづいて作成した)生存曲線よりも良好なグラフになることが約束されています。

したがって誤魔化されないためには、生存曲線にヒゲがあるのを見たら、「ヒゲの数だけインチキが行われているな」と考えるのがよいのです。

それにしても、こういうカラクリだと、生死調査を怠った件数が多いほど、生存曲線は良好になります。インチキするほど、評判があがって、売上高も増える。これではインチキを止められませんね。

しょうもないなぁ。キートルーダのようなインチキ薬が全医薬品部門の断然トップだなんて。第2位のオプジーボもインチキがある点は同じです。両剤あわせて年間2000億円以上の浪費。そのほとんどは国民の懐から出ています。

●実診療のデータだと、生死判定は確実

では、図2に代表される、実診療データの正確性はいかに。

この生存曲線は(メディケアという米国の)公的な保険機関のデータから計算されています。コンピュータには各加入者(患者さん)の詳細なデータが収められており、死亡の有無もしっかり把握されています。死亡届の情報が集まるようになっていますから。

したがって、図2の生存曲線は、患者たちの生死を正確に反映していると考えられます。

近藤誠

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