近藤誠がん研究所

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近藤誠
重要医療レポート

REPORT 011

CT検査でがんになる

CT検査をうけると、がんができる率つまり「がん発症リスク」が高くなります。

それを22歳未満、20歳未満の若年者で実証した研究を2件、紹介します。

図1は、CT検査時に22歳未満だった18万人を追跡した、英国での調査結果です。血液をつくる「骨髄」への線量が増えるにしたがい、「白血病」の発症リスクが右肩あがりで増えています。線量と発症リスクの間には、比例関係がある(Lancet 2012;380:499)。

図1 Lancet 2012;380:499

図2は、同じ研究で「脳腫瘍」を調べたものです。CTによる「脳への線量」と、脳腫瘍の発症リスクは比例しています(前掲Lancet)。

図2 前掲Lancet

もうひとつはオーストラリアでの研究です。20歳未満のときにCT検査をうけた68万人を追跡調査した結果(平均追跡期間:9.5年)、CT検査をうけていないケースにくらべ、がん発症リスクが24%上昇していました(BMJ 2013;346:f2360)。

がん発症リスクが増加した臓器や部位は、消化管、女性性器、泌尿器、脳、甲状腺、骨髄(白血病)などです。

図3にみるように、各人がうけたCT回数と、がん発症リスクの間には比例関係があります。1回のCT検査によって、がん発症リスクは「16%」増加し、CTを3回うけた人では、「48%」増しになります。

図3 BMJ 2013;346:f2360

CTによってどの程度、放射線を被ばくするのか。

そのオーストラリアの研究では、平均線量は4.5ミリシーベルト(mSv)でした。

国際放射線防護委員会(ICRP)が定めた「一般人が1年間にあびていいと定めた線量」は、1.0ミリシーベルトです。

なおオーストラリアでの研究は、からだが小さいため(CT検査での)放射線量が少なくてすむ乳児や学童をも含めているので、平均4.5ミリシーベルトです。成人の場合には、もっと被ばくします。

いくつかのメーカーのCT装置を用いて成人の被ばく線量を実測した、日本でのデータは、

・胸部CT
9.4~27.3ミリシーベルト(mSv)
・腹部骨盤CT
13.1~27.7ミリシーベルト(mSv)

となっていて、メーカーが違うと、被ばく線量が大きく異なります(Jpn J Med Phys 2002;22:152)。

ただ、どのメーカーの装置でどれだけ被ばくするかは、その報告中に記載がない。

他の報告も総合すると、胸部CTで10mSv、腹部骨盤CTで20mSv、頸部から骨盤までの「全身CT」で30mSv、とみておけばいいでしょう。

またこれは1回のCT撮影での線量です。医療現場では、一度CTを撮影したあと、「造影剤」を静脈に注射して(もう一度)CTを撮る、いわゆる「造影CT」がよく実施されています。これだと都合2回撮影されることになるので、上記の被ばく線量を2倍する必要があります。

つまり造影CTまですると、1回の全身CT検査で、60ミリシーベルトを被ばくすることになります。前述したオーストラリアでの平均被ばく線量の13倍です。

データは以上です。

なぜCT検査によって、がんの発生が増えるのか。

CTが、放射線である「エックス線」を用いているからです。

放射線は体内に入ると、正常な細胞内に2万種類も存在する「遺伝子」を傷つけていき、「変異遺伝子」をつくりだします。生じる変異遺伝子の数は、「放射線量」に比例します。

遺伝子は、タンパク質をつくる設計図なので、変異遺伝子を設計図とした「新顔のタンパク質」が生まれます。新顔タンパク質はそれぞれ特徴的な働きをするため、その数や種類や組み合わせによって、正常細胞が「がん細胞」に変わります。

ただし、細胞ががん化する原因は、放射線だけではありません。

呼吸で吸いこむ大気中の汚染物質、食物中の農薬や自然毒、そこら中を飛びかっている「自然界の放射線」などが、たゆまず変異遺伝子をつくりだしています。もっと言えば、命を支える「日光」や「酸素」でさえも、遺伝子を傷つけて変異遺伝子を生みだします。

生きている。それ自体が、細胞の中に変異遺伝子がたまる原因になっているわけです。

したがって、長生きすればするほど、それぞれの正常細胞内の変異遺伝子が増えます。これが高齢になるほど、がんが増える理由です。

ところで前述した2つの研究は、若年者を対象としています。50歳以上の「中高年者」はどうなのでしょうか。

考え方は2通りあります。

ひとつは「若年者のほうが放射線に対する感受性が高いから、がん発症リスクが高くなる」、という通説です。

とすると線量が同じであれば、前述の追跡調査で示されたよりも、中高年者のがん発症リスクは低くなる、と考えるわけです。しかし実際には、13倍もの線量を浴びることがあるため、中高年者のがん発症リスクはかなり高いはずです。

第2の考え方は「若年者の放射線感受性が高いかどうかは不明。今までの通説はデータが不確実で信用できない」というところから出発します。では、どう考えるか。

若年者でも中高年者でも、それぞれの正常細胞にふくまれる遺伝子の数は変わらない。だから被ばく線量が同じなら、各細胞に生じる「変異遺伝子の数」も同じになるはず。しかし中高年者は生きてきた期間がより長い分、各細胞にたまっている変異遺伝子の数が、若年者よりはるかに多い。

とすると、中高年者の各正常細胞は、あと少し変異遺伝子が加わっただけで、がん化するのではないか。つまり中高年者は、同一線量を被ばくした場合に、図1~3にみる若年者のデータよりもずっと、がん発症リスクが高いことになる。──これが2つ目の考え方です。

この考えにしたがうと、若年者がCTで60ミリシーベルトを被ばくした場合には、がん発症リスクは「208%」増加するので(注:16%×13)、中高年者だとリスクの増加分はそれよりずっと高いことになります。

さらに術後の検査などで、定期的にCT検査をうける場合はそのたびに、がん発症リスクが倍加していくわけです。

どちらの考え方を採用するかはお任せしますが、「CT検査でがんになる」…あなたがCT検査を受けるたび、がん発症リスクが高まっていくのは確実です。

近藤誠

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