REPORT 007
2017.12
手術をすると、
がんが暴れる
外科医は昔から、仲間どうしでは「手術をすると、がんが暴れる」「がんが空気にふれると怒りだす」と話していました。
何を意味するのでしょうか。
肺がんや胃がんなど、胸やお腹の中にできるものは術後の写真を撮れないので、乳がんのケースを見てみましょう。
図は、右の乳房を全摘された方です。
手術した外科医に「がんは全部取った」と言われたのですが、1年もしないうちに再発。
赤く、すこし盛り上がっているのが再発部位です。
かつて乳房があったところに再発していますが、メスが入っていない部位には、再発がほとんど見られません。
メスが入ると、皮膚にそなわる「がんに対する抵抗力」が落ちるからでしょう。
このような再発は「局所再発」と呼ばれています。
「皮膚(局所)に残っていたがん細胞が増殖する」というわけです。
しかしこういう再発は、かならず肺、肝臓など「他の臓器への転移」をともなっています。
逆に、からだのどこにも臓器転移がひそんでいないと、このような皮膚再発はおきません。
臓器に転移がひそむためには、初発病巣にあるがん細胞が、まず血管内にもぐりこみ、全身をめぐる必要があります。
だから手術時にはすでに、血管の中にがん細胞があります。
そしてメスが入ると血管が切れて、血液とともにがん細胞が流れ出て、傷ついた組織に取りついて増殖するのです。
ですから局所再発ではなく、「局所転移」です。
これが「手術をすると、がんが暴れる」の実体です。
胃がんや肺がんなど内臓のがんでも、局所転移がおきます。
血管が切れてがん細胞が流れ出る以外に、「腹膜の転移」が傷にもぐりこむことも多々あります。
胃がん、大腸がん、膵がん、胆道がん、卵巣がんなどでは、よく腹膜に転移がひそんでいます。
それに気づかず手術をすると、腹膜の傷口にがん細胞がもぐりこんで急激に増殖し「腹膜播種」と呼ばれる状態になります。
こうなると治す方法はなく、死ぬのを待つだけです。
女優の川島なお実さんや相撲の九重親方(元横綱・千代の富士)は、闘病経過を見ると、術後に腹膜播種が生じて苦しまれたようです。
こうしたケースを「お腹をあけて、がんが空気にふれると怒りだす」と言っていたのです。
実際には空気のせいではなく、手術をしたから、がんが怒りだしたのです。
「臓器にひそんでいた転移」それ自体が急激に増大することも少なくない。
例をあげましょう。
世界でもっとも権威ある医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に1950年に載った、大腸がんのケースです(N Engl J Med 1950;242:167)。
【ケース紹介】
59歳の男性が2年以上つづく下痢のため受診し、検査で大腸がんと診断された。
手術すると、大きな大腸がんがあり、切除したが、肝臓に異常はなかった。
術後10週間で、この患者さんは肝臓への転移のため死亡した。
解剖すると、肝臓は4700gあった。
(近藤注:体重が仮に70kgとすると、正常の肝臓は1400g程度なので、転移のため重量が3倍以上に増加したことになる。)
このケースを報告した外科医は、「手術が急激な(がんの増大と)患者の死を招いたと結論するしかない」と述べています。
以来、半世紀以上にわたり種々の国際的な医学雑誌に「手術によってがんの増殖がスピードアップして、再発して亡くなられたケース」が、数多く報告されてきました。
しかし一般の方々はご存じない。
また手術前に外科医から「がんが暴れだす可能性」について説明された方も、ほぼ皆無でしょう。
患者・家族や社会にむかっては、医者たちの口は極めてかたいのです。
またそうであるから、医学雑誌には「がんがスピードアップしたケース」が、堂々と掲載されるわけです。
