REPORT 005
2017.12
乳がん検診は必要か
日本での乳がん発見数は、2003年が4万5000人で、13年には8万5000人。
今年(17年)は10万人を超えているでしょう。
これは乳がん検診の影響です。
「マンモグラフィ」(乳房エックス線撮影。以下、マンモ検診)をうける女性が年々ふえ、発見数が右肩あがりになっているのです。
小林麻央さんや北斗晶さんなど有名人が乳がん発症という報道も、そのたびに受診者をふやします。
でも、こんなにマンモ検診に熱心なのは日本だけです。
マンモ検診の先進国である欧米では、いまやマンモ検診の効果は否定されています。
乳がん死亡を減らせないことが、比較試験で明らかになったからです。
実際のデータを示しましょう。
カナダで、40〜59歳の健康な8万9000人を「マンモ検診」グループと、検診をしない「無検診・放置」グループとに分けた「比較試験」が実施されました。
試験期間(5年)に発見された乳がんの数はというと、
【乳がん発見数】
無検診・放置 | 524人 |
---|---|
マンモ検診 | 666人 |
と、マンモ検診をしたグループで27%増えました。
もし「がんの早期発見・早期治療」で命を救えるなら、この発見数が増加した分は「早期発見」なので、乳がんによる死亡は減るはずです。
ところが25年間にわたって追跡し、生死を調べてみると、
【乳がん死亡数】
非検診・放置 | 171人 |
---|---|
マンモ検診 | 180人 |
と、マンモ検診を受けた人たちのほうが、死亡数が増えていました。(BMJ 2014;348:g366)(https://www.bmj.com/content/bmj/348/bmj.g366.full.pdf)。
マンモ検診群の方が、乳がん死が多い。手術や抗がん剤で命を縮めた可能性があります。
ともかく学問の世界では、マンモ検診の意義は否定されました。
行政の世界でも、欧米では「マンモ検診無効」が語られるようになり、スイスでは、国の医療政策を決める「医療委員会」が「マンモ検診の廃止」を勧告しました(N Engl J Med 2014;370:1965) (https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMp1401875)。
「マンモ検診無効」は、言いかえると、検診でみつけた乳がんを治療する必要がないことになります。
日本では医師たちや厚労省が、このような試験結果や世界の潮流を無視して、マンモ検診をさらに推進しようとしています。
がん検診がビジネスだから。
マンモ検診をうける女性たちは、痛い思いをして放射線を被ばくします。
そして異常を指摘されると、太い針を刺されて組織を取られ、乳がんとわかると乳房の全部ないし一部を切り取られ、毒薬や劇薬である抗がん剤やホルモン剤を投与されます。
比較試験の結果を見ると、それらはすべてムダ、ということになります。
実際にも、無用のマンモで心身が傷つき、乳房を失い、抗がん剤治療までうけさせられる悲劇が、毎年何万人にも生じています。
他にがん検診が行われている胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、子宮がんなども、性質が乳がんとほぼ同じなので「検診はどれも無効」という考え方が、世界の主流になっています。
各がん検診については、いずれ本レポートで順次取り上げようと思いますが、当面は拙著『健康診断は受けてはいけない』(文春新書)を参考にしてください。