近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来

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治療の真実を知ろう!

近藤誠
重要医療レポート

REPORT 004

もしも抗がん剤を
打たなかったら?

今回は、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんなど、がんがカタマリをつくる「固形がん」に関する話です。

これらのうち、抗がん剤による縮小率が最も大きいのは乳がんなので、乳がんについて知ると、他のがんもよくわかります。

乳がん転移は抗がん剤により、患者さんの7~8割で病巣が縮小し、数パーセントでは転移病巣が消えたように見えます。

しかし、いずれ再発、つまり再増大してきます。

そのため「転移性乳がんは治癒不可能な疾患である」とされています(渡辺亨:臨床医 1995;21:89)。

最近実施された比較試験でも、ひそんでいる乳がん転移を抗がん剤で治せないことが再び証明されました(本レポート①参照)。

では、延命の可能性はどうか。

臓器転移がある場合の、抗がん剤治療と無治療のデータとをくらべてみましょう。

どちらも緩和ケアが必要になったケースです。

まず無治療ケースですが、現代では、最期まで抗がん剤治療をうけなかった人たちを集めることが困難なので、抗がん剤が存在しなかった時代の報告を見てみます。

図1は、1805~1933年の英国で、現代のホスピスのような「慈善病院」に入院し、亡くなったあと解剖で臓器転移が確認された乳がんケースです(Br Med J 1962;2:213)(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1925646/pdf/brmedj02981-0019.pdf)。

図1 抗がん剤がなかった時代(1805-1933)の、乳がん臓器転移患者(ステージ4)250人の生存曲線。Middlesex Hospital

患者たちの年齢は不明ですが、この時代、英国人女性の平均寿命は40歳代。患者のほとんどは50歳以下だったでしょう。

この250人が仮に健康だったら、という仮想の生存曲線がグラフに破線で示されています。

健康でも10年後に生存している人は全体の68%でしかない。現代の健康な日本人なら90%を超えるでしょう。

とすると現代では、乳がん転移を放置した場合、このグラフよりも長く生きられそうです。

では抗がん剤の場合はどうか。

図2は、国立がん研究センター中央病院での実績で、抗がん剤治療のオピニオンリーダーである勝俣範之・日本医科大学腫瘍内科教授が論文に名をつらねています。(Oncologist 2009;14:752)(http://the
o
ncologist.alphamedpress.org/content/14/7/75
2.full.pdf+html
)。

図2 最後の抗がん剤投与から死亡するまでの日数

大半は乳がんで、ずっと抗がん剤投与をくり返してきて「もう抗がん剤が打てない」「緩和ケアに移行すべき」と担当医が判断したケースの、最後の抗がん剤投与からの生存期間です。

12.6%が抗がん剤投与から30日以内に、半数が100日以内に亡くなり、全員が1206日(3.3年)までに死亡しています。

死亡原因はなんだったのでしょうか。

たとえば抗がん剤を打ってから5日目に亡くなられた方がいます。

元気だ、まだ抗がん剤に耐えられる、と担当医が判断して打ったので、抗がん剤の突発的な毒性が原因であるはずです。

副作用で味覚神経がやられるなど食欲が戻らず、栄養失調で亡くなられた方も少なくないでしょう。

抗がん剤は人の生命力を吸い取るのです。

これに対し図1はその昔、数少なかった慈善病院に入院させてもらえた末期患者です。

図2のケースより、がんが進行していた可能性があります。

しかし、抗がん剤が存在しなかったからでしょう、半数が2.7年生存し、最後の一人が亡くなったのは18年と3カ月後です。

無治療のほうが長生きだということが、よくわかります。

つけ加えると現代の患者は、昔と異なり、CTなどの精密検査によって転移が発見されています。

つまり抗がん剤開始前には、転移は小さく、全身状態は良好です。

また転移の成長スピードは、みなさんが思うよりもゆっくりです。

したがって、がん転移が検査で発見された患者さんは、もし抗がん剤を打たなければ理論上、何年も生き続けられる。

実際、種々の固形がんの肺転移の場合、ぼくが慶應大学病院とセカンドオピニオン外来で継続的に診てきた「がん放置」ケースでは、3年以内に亡くなった方はひとりもいません。

近藤誠

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